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2020-02-27 宮藤官九郎がオファーの際に重要視するのは企画、枠、人? 野木亜紀子のテーマの決め方は?:コタキ兄弟と四苦八苦
ドラマ24「コタキ兄弟と四苦八苦」(毎週金曜夜夜0時12分放送)、夢の競演を果たしている野木亜紀子と宮藤官九郎。野木は脚本家として参加、宮藤は物語のキーマンとなるコタキ兄弟の先輩レンタルおやじ・ムラタを演じているが、お互いにファン同士というふたりは、脚本家として今何を思うのか? また売れっ子ならではの悩みとは? 自身の今後の展開は?「前編」に引き続きドラマファンならば唸ること請け合いの、貴重なお話をどうぞ!
「言って伝わるなら言った方がいい。偉かろうが何だろうが知らねえや、って」
──そもそもの話なんですが、おふたりはこれまで面識があったのですか?
野木「きちんとお話ししたのはコタキ兄弟の現場でお会いしてからです。それとちょうど1週間くらい前に(取材は2019年12月末)、飲み屋さんでお話する機会があって。その時に『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系)についてちょっと熱く語りすぎました(笑)。(NHK大河ドラマ)『いだてん~東京オリムピック噺~』の話も」
──宮藤さんは2000年の「池袋ウエストゲートパーク」(TBS系)の脚本で注目され、野木さんはその10年後の2010年にデビュー。どのあたりから、自分の意見を言えるようになるものなんですか?
野木「私は最初から言ってました。デビューしたのが35歳をすぎてと、遅かったもので」
宮藤「えっ!? そうなんですか? なんか、ずっと活躍されてる印象があるから」
野木「私は映画の専門学校出身で、卒業後は制作会社でドキュメンタリー番組をやっていて。脚本家を目指してからはバイトや派遣社員をしながら、フジテレビの『ヤングシナリオ大賞』に応募していたんですね、6年間くらいずっと。遅いデビューでもう後がないし、ドキュメンタリー時代はディレクターもやっていたので、言って伝わるなら言った方がいいなと。(相手が)偉かろうが何だろうが知らねえや、って」
第5話「五、愚慮弄苦」では、喫茶シャバダバの看板娘さっちゃん(芳根京子)が泥棒!?
──(笑)。宮藤さんの「池袋~」からのTBS一連のドラマ、野木さんとは「空飛ぶ広報室」(TBS系)などをご担当された磯山晶プロデューサー(TBS)は、「野木さんは"闘う脚本家"だ」と表現されていました。
野木「おっしゃってましたね。別に闘いたくはないんですけど、闘わざるを得ない時ってありません? ドラマをよくするためならいいんですけど、"何だかよく分からない何か"によって変更を余儀なくされそうな時とか──」
宮藤「......あ、ゴメンナサイ、聞いてなかったです。嘘です(笑)。ありますよね、確かに。
"よく分からない何か"って」
野木「(笑)、ドラマをよくしようという同じ思いで話し合っている時でも、思ってることがそれぞれ違ったり。かと言って偉い人の前で物おじして、言いなりで書いても話がブレるだけだし、面白いものにはならないよなあって」
宮藤「僕の場合、最近はなるだけ闘わないでいいように、『ここは、こう思われないようにこうしよう』って先回りして分かりやすく書いたり、変に気を遣ったりして。それはそれでイヤだし、そうなり過ぎる怖さもありますけど」
野木「わかりあうために必要な手間ってありますよね。気を遣うバナシで言うと、私は相手に過剰に気を遣われるとやりづらいです。何でも言うことを聞いちゃう人たちが相手だと、不安になるというか」
宮藤「打ち合わせで発言しない人は分かってくれてる人だと、どこかで思ってたんだけど、逆の方が多いですよね。発言しない人ほど、言わなきゃ分からない、伝わらない人なんだって、最近は」
野木「分かったような顔で聞いているけど分かってないパターン!」
宮藤「分かってなくて発言する人には分かるように言えばいいから、そっちの方が付き合いやすいですよね。『問題ないです』とか言う人で結果上手くいった場合はそれでいいんですけど、上手くいかなかった場合は『なんだよ~、あの時、黙ってたくせに!』......と、怒りが2乗になる(笑)」
野木「みんなが心の中で"なんか違うな""これどうなんだろう"と思っているまま進むのって一番怖いですよね」
宮藤「あと最近は自分が年上であることが当たり前になりつつあるので、若い人たちとどう付き合っていくのか、とか。新しい若い人ともやりたいんですけど、どこまで(意見を言って)大丈夫か? 力加減が難しそうだし。若くて熱い人ならいいんですけど」
野木「『負けないぞ!』っていう意識で来てもらえるといいですよね。少し疑った方がいいよ? みたいな」
第5話より。一路(古舘寛治)がさっちゃんを改心させる為にとった行動が二路(滝藤賢一)を混乱させることに。
「最近、脚本家になったのが35歳でよかったな、って思う」
──そういうおふたりが若かりし頃のお話なんですが、宮藤さんは、あるインタビューで「大学2年生の頃に(劇団)大人計画に入って、この歳になった。だから10代の頃にやりたかったこと、表現したいと思ったものを、そのままやっているんだと思う」というようなことをおっしゃっていて。
宮藤「そうですね。バイトもしていましたが、なんとなーく食えるようになった20代半ばから、劇的な変化がないままこの歳になって」
── 一方の野木さんは、就職をされて、35歳を過ぎて脚本家デビュー。宮藤さんで言う「やりたかったこと、表現したいと思ったもの」は何になるんですか?
野木「私の場合、挫折人生だったので」
宮藤「デビュー前は会社勤めをされてたんですよね?」
野木「"35歳までに入賞できなかったらもう後はない"と映像関連の仕事を一度辞めて、『ヤングシナリオ大賞』に応募し続けて、やっと受賞できて。その間はバイトとか、派遣社員として食いつないで。月末になると、"わ~金ねーな"......っていう。だから無職の(コタキ)兄弟の気持ちがよく分かるんですよ(笑)」
宮藤「昔からドラマは好きだったんですか?」
野木「映画学校に通っていたので、映画ばかり観ていたんですけど......それこそ『映画の日』は1日5本観られるようにスケジュールを組んで行ったり、名画座にも行ったり。年間で250本近く、劇場で観ていて。でも、社会人になると、映画館に行く時間がなくなるじゃないですか?」
宮藤「そう......でしょうね、きっと。就職したことがないから分からないけど(笑)」
野木「あんなに好きだった映画館に足を運ぶ時間も余裕もなくなっちゃって、ドラマを見るようになったんです。たまの休日はワインとか買って、録画していたドラマを朝から晩まで見るのが唯一の幸せ、みたいな。娯楽の摂取をしていました。
で、時期的にはちょっとズレますけど、その頃出会ったのが、宮藤さんと磯山さんコンビの『池袋ウエストゲートパーク』で。"なんじゃこりゃ~!?"と衝撃を受けて、当時でもあまり見かけなかったD-VHSに録り溜めてましたね(笑)」
第6話「六、世間縛苦」は、タワマンのホームパーティのゲストとして出張レンタル。
──高画質で録画できる代わりめちゃくちゃ高価でしたが(2000年当時、専用のビデオデッキが10~20万円ほど)、何度も見返したくなるドラマでしたからね、その気持ちはよく分かります。
野木「普通のVHSよりも長時間録画できたので、奮発して。ドキュメンタリーの制作会社でADとかやってた頃です。『今、宮藤さんとお話をしているよ!』と、20代だった自分に言いたいです」
宮藤「いやいやいや(恐縮)、ありがとうございます」
野木「最近、脚本家になったのが35歳でよかったな、って思うんですよ。その頃の蓄積があるから今、書けている気がする。
宮藤さんで言う"10代の頃にやりたかったことを書いてる"というのを私でいうと、脚本家になる前の私が抱いていた"視聴者としての思い"かもしれない。この原作でどうしてこうなっちゃったの? この妥協の塊みたいなドラマはどうしてできちゃったの? ってドラマに出会うと、『私ならこうするのに!』って思ってた(笑)。それで今、私ならこうするをやっている。実際に渦中に入ってみると、言うほど簡単なことじゃなかったですけどね」
「『どれか絞りなさい』と言われたら......やっぱ脚本だな」
第6話より。二路の前に別居中の妻が現れ大ピンチ!
──宮藤さんは『池袋ウエストゲートパーク』を経て、『木更津キャッツアイ』(TBS系)、『ぼくの魔法使い』(日本テレビ系)、『マンハッタンラブストーリー』(TBS系)など執筆。2005年公開の映画『真夜中の弥次さん喜多さん』で初めて監督に挑戦されるわけですが、野木さんは監督業に興味はありますか?
野木「学生の時は監督志望で、制作会社にいる時はディレクターをやったこともありますが、自分には向いてないと思いました。現場で、その場その場の状況に応じて考えなきゃいけないじゃないですか?」
宮藤「映画は特にそうですね。ロケ現場の状況とか天気とか、その場で判断しなきゃいけないことが多いので」
野木「私は瞬発力が乏しいんですよ。器用じゃないんです。ただ、原稿作成や編集作業は好きだったので、"そもそも私はフィクションをやりたかったはず"と思い出し、映画やドラマにかかわっていくには脚本を書くしかないと一念発起して。その点、宮藤さんはすごい。いろんなことを平行してやられているから」
宮藤「でも、ここ最近、この先どうして行こうかな......と思った時に、このままのペースじゃ1コ1コのスピードが遅くなっちゃうなと思って。どれか1コに絞んなきゃな、とは思っていて」
──それは作業進行が遅れたり、ということですか?
宮藤「集中力が落ちて、掛け持ちや、同時に何作品も並走させるのがキツくなって来たんです。30代の時は体力もあったし寝なきゃ寝ないでやれたけど、今後はどんどんキツくなるだろうし。」
野木「どれに絞るんですか?」
宮藤「結局は、脚本だと思います」
野木「おおーっ!」
宮藤「もし『来年までにどうしても、どれか絞りなさい』と言われたとして......って考えて、どんどん捨ててったら、やっぱ脚本だな、と」
野木「そもそも脚本を書いて、監督もやって、舞台もやって俳優もやって、バンドやってラジオも......とか、それがおかしいですよ。器用すぎる。私なんて脚本だけで手いっぱいなのに」
宮藤「どれも長くやらないって前提で始めたからできたんですよ。結果、長くなっちゃってますけど(笑)。でも、そろそろ年齢的にも体力的にも絞ってく時期なのかな、と」
野木「これからもずっと宮藤さん脚本の作品を見たいので、『絞るならバンドだ』と答えられたとしても責めはしないけど、『えっ、そっち......!?』って気分にはなります(笑)」
宮藤「奥さんにも言われると思います。『それ違うんじゃないの?』って(笑)」
野木「ともあれ脚本でよかったです」
宮藤「あと脚本だけに絞った時にどうなるのか、見てみたいというのもあります。専業の脚本家になったら急に説教臭くなったらどうしよう? とか(笑)。セリフを事細かに指定するとか、演出とか役者をやってたら絶対にやらないと思うんですよ。演出家の気持ちも役者の気持ちも分かるから。専業でやれば、こだわりとか出てくるのかな、と」
野木「なるほど~」
第7話「七、病苦」の依頼は"音信不通の女性の安否確認"。
「結局は人ですよね。誰とどんなことをやりたいのか」
宮藤「時間も迫ってるので最後、ひとつ質問をしていいですか? 答えるのが難しいと思うんですけど、テーマってどの段階で決めてますか?」
野木「企画自体のテーマと、1話1話のテーマ、両方ありますよね?」
宮藤「あります。えーっと、お題をもらう時に......例えば『コタキ兄弟』。兄弟もので、となった時にパッケージから入るのか、見せ方から入るのか」
野木「それぞれ違いますね。『アンナチュラル』(TBS系)なんかは、『女性が主人公の法医学もので』と言われて、調べてみると不条理なことっていっぱいあるんだなと思ったところから考え始めたんですけど」
宮藤「それだけのお題で、あんなに膨らませて書けるなんてすごいなー」
野木「今回の『コタキ』の場合は、まず兄弟ありきで、主人公があのおふたりで。なんとなく無職っぽいなと想像していって(笑)」
宮藤「(兄弟を演じる)古舘(寛治)さんと滝藤(賢一)さんのキャラクターから入ったんですね」
野木「そうですね。で、芳根京子さんが決まったところから、じゃあこの3人だったらどういう話がいいかなと考えて。宮藤さんはどっちですか?」
宮藤「僕も場合によりますけど『次は昼ドラです』と言われたら、それだけでワクワクしちゃうところがあって(笑)。だから、こういう取材で『どうしてこんなお話にしたんですか?』と聞かれたりすると困るんですよ。相手はきっとテーマを聞きたいんだろうけど、意外とテーマって最後に決まることが多いので」
野木「大体は書いてるうちに決まっていきますよね」
宮藤「特に僕は、書かないと見えてこないから。それをあたかも最初からあったフリをしなきゃいけない時があるから、申し訳ないなーって(笑)。放送が終わった後ならいいんですけど、書いてる途中だと自分でも分からない時があるので。
(NHK連続テレビ小説)『あまちゃん』をやった時も、東北の震災について描きたかったように思われちゃってて、まったくそうじゃないから『違うんです』と何度も訂正したんですよ。でも、後から監督に『このまま行くと、どうしても震災のエピソードは入って来ますよね』と言われて、あれ? そうか、最初から震災を描く前提で書いてたかも知れないな俺、って(笑)。途中で気がつくんです。最後の方まで書き上げないと分からないから」
第7話より。ごみに埋もれて動かないあかり(門脇麦)は面倒くさい病!?
──与えられたお題なりテーマがあって、そこに当て込んでいく方がやりやすいですか?
宮藤「例えばプロデューサーから......『木更津キャッツアイ』の場合は、磯山さんから『"主人公が死んでしまうお話"で、そうすると命がテーマになるよね』と言われたから、1回そこから逃げて、いつかそこに戻ればいいかなって思うからやれたんですけど。自分から『命がテーマです』って言うことは、まずないです。だから今後、そういうものも求められるようになった時どうしよう? しんどくならないかなって」
野木「でも『命がテーマ』と言われても、最終的にどういうテーマにするかは自分で決めていきますよね。じゃないと書けない」
宮藤「そうですね、きっかけだけで。最後に何を言いたかったのかは、自分です」
野木「途中で迷った時は、最初に(プロデューサーなりから)与えられたテーマに立ち返と、その方が上手くいく時もありますけどね。必ずどこかで道に迷うじゃないですか。そういう時に『ああ、そうだった』って」
宮藤「確かに。僕も最初『こういうドラマにしたい』と言われて、"それならできる"と思った時の気持ちは忘れないようにしようとは、いつも思っていて。ただ、それが上手く口で説明できるものではないので、これからはもっと上手くコーティングして、さも頭がよさそうなフリをして(笑)、言えるようになりたいですけど」
野木「相手にもよりますよね。プロデューサーもいろんなタイプの方がいるし」
宮藤「"企画を通す才能"がある人もいますしね。プロットを送って、できた企画書を見たら『わーっ上手!』って(笑)」
野木「(笑)」
宮藤「最初書きたかったのはプロットの方だったけど、こっちもいいな、みたいな気にさせられる。それって僕にはない才能なんですよ。大人の......僕も大概大人ですけど(笑)、大人の人を説得する才能がある人とか。すごいなーと思います」
野木「私も最後にひとつだけ。宮藤さんは仕事を受ける時に重要視するのは、企画ですか枠ですか、人ですか」
宮藤「企画とキャストの組み合わせで話がきた時に、"どうしてもやりたいかどうか"を考えて。あとは、キャスト以外に、それを持ってきた人がどんな人か。僕、人を見る目がないとよく言われるので偉そうなことは言えないですけど(笑)」
野木「そうですよね。人は大事ですよね。誰とどんなことをやりたいのか」
宮藤「見てくれる人もそうですけど、誰かが見てくれないとこの仕事は成り立たないので。今日はどうもありがとうございました」
野木「こちらこそ、お忙しい中どうもありがとうございました。これからどちらへ?」
宮藤「1時間後にTBSでラジオで生放送が。すみません」
野木「(笑)、しばらくは脚本家ひとつに絞れそうにないですね。では、またどこかで飲みましょう」
(取材・文/橋本達典)
【プロフィール】
野木亜紀子(のぎ・あきこ)
1974年生まれ。東京都出身。日本映画学校8期。卒業後、ドキュメンタリー番組の制作に携わる。一般企業勤務を経て、2010年「フジテレビ ヤングシナリオ大賞」を受賞後、脚本家デビュー。主な作品に映画『図書館戦争』シリーズ(2013年、2015年)、ドラマ『空飛ぶ広報室』『逃げるは恥だが役に立つ』『アンナチュラル』(TBS系)、『獣になれない私たち』(日本テレビ系)、『MIU404』(TBS系、4月より放送)などがある。2020年に映画『罪の声』が、2021年には『犬王』が公開予定。著書『獣になれない私たちシナリオブック』が発売中。
宮藤官九郎(くどう・かんくろう)
1970年生まれ。宮城県出身。1991年より「大人計画」に参加。2000年、ドラマ『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系)の脚本で注目される。映画『GO』(2001年)、『謝罪の王様』(2013年)、『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』(2016年/監督兼任)、ドラマ『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)、『監獄のお姫さま』(TBS系)、NHK連続テレビ小説『あまちゃん』、NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』など代表作多数。4月より「ウーマンリブvol.14『もうがまんできない』」を上演。
2月28日(金)放送、ドラマ24「コタキ兄弟と四苦八苦」第8話は?
兄弟の心と体が入れ替わってる!! ある朝目覚めたらあの大ヒットアニメ映画のような事件勃発! さっちゃん(芳根京子)と共に原因を探すが、さらにややこしい事態に!?
「八、五蘊盛苦」
ある朝、レンタル兄弟おやじ一路(古舘寛治)が目を覚ますと事件発生! なんと一路と二路(滝藤賢一)が入れ替わってる!? 外見はそのままに中身だけが入れ替わり、真面目な一路が混乱する一方、能天気な二路は入れ替わりを楽しんでいた。兄弟は喫茶シャバダバの看板娘・さっちゃん(芳根京子)と一緒に原因を探すが、さっちゃんも巻き込む大騒動に!? 入れ替わりの秘訣は"増えるワカメ"!? 徐々に明らかになるさっちゃんの過去とは?
番組情報INFORMATION
2020-01-30 脚本に行き詰った時は...!? 野木亜紀子×宮藤官九郎が明かす人気作の貴重な裏話:コタキ兄弟と四苦八苦
野木亜紀子と宮藤官九郎。日本のエンタメ界をけん引する人気脚本家のふたりが、ドラマ24「コタキ兄弟と四苦八苦」(毎週金曜深夜0時12分放送)で、夢の競演を果たしているのをご存じだろうか?
今や映画・ドラマに欠くことのできない名バイプレーヤー・古舘寛治、滝藤賢一が扮する真面目すぎてうまく生きられない兄・古滝一路と、そんな兄を見て育ったせいか、ちゃらんぽらんにしか生きられなくなった弟・二路が、ひょんなことから「レンタルおやじ」を始める......。映画「リンダ リンダ リンダ」(2005年)、「味園ユニバース」(2015年)、「ハード・コア」(2018年)など"通"好みの作品で知られる映画監督・山下敦弘が全12話すべての演出を手掛けることでも話題の本作で、野木は脚本を担当。宮藤は物語のキーマンとなるコタキ兄弟の先輩レンタルおやじ・ムラタを演じているのだ。
おふたりいわく、本作での競演は「偶然」とのことだが、もともとは脚本家を目指す以前、宮藤の作品に衝撃を受けたという野木と、野木作品のファンだったという宮藤。そこで「テレ東プラス」では、このトップランナー同士のビッグ対談をオファー。多忙を極めるスケジュールの合間を縫って、「コタキ兄弟」の舞台裏から脚本家としてお互いに気になること、そして仕事の流儀まで、存分に語っていただいた。
「これ宮藤さんが読むの!? って、もう1回脚本見直しました」
──本日はドラマファンならば歓喜すること間違いなしの、人気脚本家おふたりの対談となります(一同、拍手!)。
宮藤「いやいやいや、そんな! やめてください。僕の方こそ野木さんのファンだったので、今日は楽しみにしています」
──野木さんは脚本家になる以前、「池袋ウエストゲートパーク」(TBS系)から始まる宮藤さん脚本の一連のシリーズに衝撃を受けたそうで。今回は野木さん脚本の「コタキ兄弟」で憧れの大先輩とある種の"競演"を果たされているということもあり、この場を設けさせてもらいました。
宮藤「衝撃、って。そんな人、いないですよ」
野木「いえいえ。当時、私は視聴者でしたが、宮藤さんの出現はドラマ界におけるエポックメイキングでした。脚本家を目指す人で影響を受けて真似しようとした人もたくさんいたと思います。といっても、誰も真似できないんですけどね。それから直近の『いだてん〜東京オリムピック噺〜』(NHK)まで、ずっと楽しく見ているので、宮藤さんがムラタ役に決まった時は本当にうれしかったです」
──そもそも宮藤さん演じるレンタルおやじの先輩・ムラタは、どうやって決まったんですか?
野木「プロデューサーの濱谷(晃一)さんがオファーしてくださいました。ムラタは正体不明の、何とも言えない役なので、山下監督や古舘さんとも"誰にしようか?"とずっと話していて。最初の候補者の中に宮藤さんの名前も入っていたけど、お忙しいし無理だろうと思っていたら、ある日『決まりました』と。
うれしかったんですけど、『私が書いた脚本を、宮藤さんが読むの!?』って。同業者に読まれることなんて滅多にないし、大先輩だし、昔からのファンだし。変な緊張感がでてきて、もう1回、書いた脚本を見直しました。もう決定稿になってたので直せやしないんですけど(笑)」
宮藤演じる、「レンタルおやじ」代表・ムラタ
──宮藤さんは『コタキ兄弟』の脚本を見て、いかがでしたか?
宮藤「面白かったです。男ふたりの兄弟のやりとりが真実味があって。これ、本当に女性が書いたのかな? と思いました。感情の流れ、特にお兄さんの感情が同じ男としてよく分かるな。弟の離婚うんぬんの揺れ、みたいなものとか。それを男側から見てるのがすごいと思いました。それを女の人が書いてるというのが」
野木「(神妙な面持ちで)ありがとうございます。うれしいです」
宮藤「これって、もともとは古舘さんと滝藤さん発の企画から始まって。言ったらバディものじゃないですか?」
野木「そうですね。おじさんのバディ」
「サブタイトルが教訓になってるから本編でお説教しなくてもいい」
──2017年に偶然再会した古舘さんと滝藤さんが意気投合し、企画を立ち上げて、ということでしたね。
宮藤「難しくなかったですか? なんて言うか......みんな『バディものやりませんか?』って、たやすく言い過ぎじゃないですか(笑)。(提案する側からすれば)楽なんです、きっと。有名人をふたり連れてくればいいから。
でも大概、やり尽くされてるし。刑事、探偵、学校の先生、医者のバディものもある。しかも主役ふたりそれぞれを、ちょうどよく目立たせなきゃいけない(笑)、思ってる以上に難しいんですよ。実際に難しいし、僕もいくつかプロットを書いて成立していないものがありますし。
それを兄弟という設定にして。しかも。兄弟はおじさんで。加えてレンタルおやじをやってて。最初から大したことをやらない、って言ってるようなものじゃないですか?(笑)」
野木「(笑)、確かに! 大したことをやらないのは間違いないです」
宮藤「そこがまず、素晴らしいなーと思いましたし。台本を開いたら予想外に1話から結構攻めた内容で。なおかつ、兄弟それぞれがバランスよく"立ってる"んで、すごいなと思って。各回が絶妙に繋がっているストーリー展開にも、偉そうですが感心しました」
野木「わ、ありがとうございます」
第1話「一、怨憎会苦」では、私文書偽造の依頼!?
──レンタルおやじは依頼人の話を聞く仕事ということで、探偵もののスパイスも入りつつ。がんばった割りに、報われなかったり。また、ちょっぴり切ない展開もあって。「傷だらけの天使」や「探偵物語」(日本テレビ系)といった、往年のドラマのような。
宮藤「そう、報酬がないところ、千円しかもらえないというのもいいなーって。内容的にも今の時代の、やさしいバディものというか。これって、どうやって発想されたんですか?」
野木「古舘さんから言われたのは『俺たちで兄弟ものを書いて』ということと『芝居がしたい』ということで。そこから濱谷さんと、どうしましょうか? となり。毎回ゲストがいた方がいいけど、探偵が主人公はありきたりだよね、となって。そこから、だったらレンタルおやじはどうかとなって......でも、先に宮藤さんが"レンタルおじさん"を出されてましたよね? 『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)で。あのドラマも好きでした」
宮藤「吉田鋼太郎さん(の役)ですね。僕はそもそも『この商売、何!?』っていう驚きというか、戸惑いがあったから登場させて。同じおやじの自分からすれば、なんで知らないおっさんを呼んで、お茶して、しかもお金まで払わなきゃいけないんだって(笑)。でも、そっちの方が楽で、それを受け入れられるのがゆとり世代なんだろうなと気づいたんです。わかりやすいアイコンとして。あと主人公3人が知り合うきっかけとして出したんですけど。まさかレンタルおやじメインでくるとは思わなかったです。
あと(本作は)サブタイトルがまた、哲学的というか仏教的というか気になったんですけど、あれはどうして?」
野木「2017年に企画書を書いた当時は、『兄弟の役に立たないライフハック(仮)』みたいなタイトル案だったんですけど、2020年にライフハックはもう古いな、となって。レンタルおやじというのは決まっていたんで、じゃあタイトルをどうしよう? となった時に四字熟語もいいなと思ったんですよ。
で、何かないかなと探していたら"四苦八苦"(※注1)が目に留まって。もともとは仏教用語なんです。四苦と四苦で八苦というのがあって。どれも人間の本質をあらわしているじゃないですか。レンタルおやじとして、これを1コ1コやっていけばおもしろいし、新しいんじゃないかなと思って。思いついて、まず過去にやられてないかな? と、ググりました(笑)。偶然カブってしまったものでも、少し似てるだけですぐにパクったと言われるから」
※注1:「四苦」は生・老・病・死の四つの苦しみ。「八苦」は、四苦に愛別離苦(愛するものと別れる苦しみ)・怨憎会苦(憎むものと出会う苦しみ)・求不得苦(求めても得られない苦しみ)・五陰盛苦(心身の苦痛)。ドラマは全12話のため、オリジナルの"苦"を4つ足して「12苦」としている。
宮藤「あー、分かる。そういう世の中になってきましたもんね。あとメッセージとかテーマとか言わなきゃいけなような風潮に、見ている人たちも慣れてきちゃってるから『このドラマ、なにも言ってないじゃん!』って(笑)。別に(直接メッセージやテーマを)言わなくても、見た人の心が動けばいいんじゃないかなって思うんですけど。
その点、『コタキ兄弟』はサブタイトルが教訓になってるから、本編でお説教しなくてもすみますもんね? いい思い付き、発想だなと思いました」
第2話「二、求不得苦」は、新郎からの依頼で親戚のフリをして結婚式に参列
野木「そうですね。あと放送時間40分の枠なので、正味30分の短尺ドラマにはちょうどいいかな、というのもあって。"苦"という縛りで1時間枠だと、ちょっと重くなりそうなので。
でも、いざやってみると、ちょっとバタバタしましたね。1話はこんな苦がいいかな、2話はこの苦がいいかな......ってホイホイやってたんですけど、途中だんだん残りの苦が少なくなってきて。ヤバイヤバイ、最後までちゃんと組み立てないとはまらなくなるぞと(笑)。最終回が創作の苦というのも、なんか微妙じゃないですか?」
宮藤「王道なもの(苦)でシメたいですよね」
「"続く"が何回もあるドラマの方が自分にはいいのかも」
──宮藤さんもかつて「木更津キャッツアイ」(TBS系)などで実験的な試みをされていましたが(※注2)、野木さんのように途中で行き詰まりそうになったことはありますか?
※注2:1話を野球のゲームになぞらえて表と裏の二部に分けて構成。ストーリーを巻き戻して、その裏で何が起こっていたのかを見せた。
宮藤「ありました。『木更津キャッツアイ』はまだ平気だったんですけど、『マンハッタンラブストーリー』(TBS系)とか(登場人物A、B 、C 、D、F、Fの)恋愛の矢印が連鎖して、途中からループして......って思いついたのはいいんですけど、だんだん窮屈になってきて」
野木「『マンハッタン』、はちゃめちゃに笑えて、DVD BOXを買うくらい好きでした」
宮藤「次の『タイガー&ドラゴン』(TBS系)では、最初に古典落語を見せて、落語と同じようなストーリーを作り、最後にサゲとオチをリンクさせる、という縛りを設けたことで、自分の書きたいことが入らなくなっちゃったんですよね。『キャッツアイ』の最初の稿とか、映画の台本くらい長かったんですよ。確か6話だったかな? 160シーンくらいあって」
野木「アハハハハ!」
──通常は1時間枠で60~80シーンくらいですよね?
宮藤「磯山(晶)さん(『木更津キャッツアイ』などのプロデューサー)も『宮藤くん、これスタッフに配れない』って(笑)。それで『じゃあ分かりました』って書き直すんですけど、『キャッツアイ』の時より『マンハッタン』、それよりも『タイガー&ドラゴン』、『うぬぼれ刑事』(TBS系)......と、どんどん台本が長くなっていって(笑)。今も短く、短く、って直すんですけど、だんだん自分が書きたいことが入らなくなってきたんです」
野木「それだけ書きたいことが増えていっている、とか?」
宮藤「違うんですよ。昔はできたんです。(シーンごと)バッサリ削ってたわけじゃないのに、ちゃんと書きたいことも残しながら、それなりに圧縮できていて。見た人が分かりやすいかどうかは別ですけど。
でも今は、きっと書きたいことを丁寧に、というか。分かりやすく、上手くやろうとしているというか。それで入らなくなっているような気がするんです」
野木「やりながら書くべきことが浮かんでしまうんですか?」
宮藤「いえ、この機会に書かなきゃってことは、最初からたくさんあって。その浮かんだものをなかなか捨てられないというか。でも1時間の尺に収めなきゃいけないから直して......今、連ドラを10~11話やるとしたら、書きたいことの半分も入らないんじゃないかな。
かと言って、毎回朝ドラとか大河をやるわけにもいかないし。そういう(放送が半年~1年間という)長いのをやっちゃった弊害もあるのかなと思うんですけど。だから今、テレビ朝日の昼の『やすらぎ(の刻~道)』枠が空いてないかな、と」
野木「昼帯(TBS系『愛の劇場』枠)はやられてましたよね? 斉藤由貴さん主演の『吾輩は主婦である』、あれも好きだったー」
宮藤「『吾輩』は1話30分で40話くらいしかなかったんですよ。『やすらぎ』枠は半年とか1年やれますから。朝ドラとか大河をやって思ったんですけど、"(次回へ)続く"っていうのが何回もあるドラマの方が自分にはいいのかなと思って。
夜中に若い脚本家とか監督が作った映画とかドラマを見ていると、すごい整理されてるなーって思うんですね、自分が若い時に作ってたものと比べて。『これを書きたい、言いたいから、これ以外は削って大丈夫です』みたいな潔さがあって。でも、僕はちょっと違うな、と思うんですよ。ある程度のムダが必要なんですよ。まあ、整理されたドラマを求められてはいないと思うんですけど(笑)」
──本筋とは関係なさそうなやりとりや何気ない会話が宮藤さんの脚本の魅力のひとつです。
宮藤「その点『コタキ』は40分という短い尺の中に、一見くだらない兄弟のやりとりもあれば、ちゃんとメッセージも込められていて。なおかつ、これはネタバレになりますが......後半では果敢にチャレンジもしていて、ものすごい展開になっていて。本当にすごいな、と感心しました。僕もがんばんなきゃな、って思います」
第3話「三、曠夫受苦」の依頼は、男子大学生からの恋愛相談
山下監督は「女優さんを、えぐるように撮る」
──古舘さんと山下監督にお話をお聞きした際(インタビューはこちら)、「野木さんはよく引き受けてくれた」「"しまった"と後悔したんじゃないかな」などと、おっしゃっていたのですが、多忙を極める中、この枠を引き受けられた理由は何でしょう?
野木「ずっとテレビ東京でやってみたかったんですよ」
宮藤「僕もやってみたいです! 『コタキ』に参加して、よりそう思いました。いろいろ(制約など)なさそうでいいなーって(笑)」
野木「そうなんですよ、私も好きにやれそうだなー、って(笑)。加えて主演が古舘さんと滝藤さんじゃないですか。"これはやるしかない"と、ホイっと引き受けてしまって。『監督は山下さんがいいな』と言っていたら本当にそうなってうれしかったです。山下さんは、全12話のすべての回の演出を引き受けたことを後悔してましたけど(笑)」
宮藤「僕はまだ映像を見れていないんですけど(取材は2019年12月末)、ご覧になりました?」
野木「半分くらいです。"(見てみて)おお、ここはこうしたか!"みたいな。書いてる側としてはうれしいですよね。創意工夫というか。時間も予算もそんなにない中、すごいな、山下さん、と改めて思いました。あと女優さんを本当にキレイに撮る方だなと。女優さんへの愛を感じました。男性にはそんなに感じなかったですけど(笑)」
宮藤「(笑)、あー、現場でもそう思いました」
野木「女優さんを、えぐるように撮ると言いますか。存在そのものが引き立つような。"そこ、ずっとその女優さんのカットで行くんだ"とか。次の作品を書かなきゃいけないのに、何度も見ちゃったりして」
宮藤「役者目線として、ちゃんと抑えてくれる監督だと前から思っていたんですけど、今回よりそう思いましたね。やりすぎると、『そこまでやらなくていいです』と。見る人にどう見えているのかを逐一言ってくれるので、信頼できるというか。だからこそスケジュールとか厳しい中でも、みんなやれるというか。その代わり役の説明とか全然ないんですけど。現場でも『(宮藤演じる)ムラタは不思議!』とだけ言ってました(笑)」
野木「アハハハハ!」
宮藤「"不思議"っていうのは実は一番難しいんです(笑)。そっかー、不思議かあ......って珍しく考え込んだりして」
野木「宮藤さんご自身がそんな雰囲気があるから、そのままでよかったんじゃないですか? そんなにシャキッとしたイメージがないから(笑)」
宮藤「確かにそうなんですけど(笑)、本人には分からないじゃないですか? 不思議かどうか。自分としては普通だと思ってるから。あ、でも1回寝不足で現場に行ったら何も言われなかったんで、"(正解は)これかー"と、思ったことはあります(笑)」
野木「私が山下監督のことを好きな理由でもあるんですけど、宮藤さんもおっしゃったように抑制的ですよね。ナルシスティックじゃないというか。客観性があるので、安心してお任せできる」
──コメディにも振りすぎず、かと言ってロマンチックにもなり過ぎず。
宮藤「そうそう。難しいと思うんですけど、そこのバランスが上手いんです」
野木「本当に山下監督にお願いしてよかったな、と思います」
「コタキ兄弟」を機に、ドラマ界に多大な影響を与えてきた脚本家2人が、さらに刺激し合うことに。次回の「後編」では、脚本執筆に四苦八苦しながらもよいものを作ろうと奮闘するおふたりの仕事ぶりや、脚本家としての今後をお届け。どうぞお楽しみに!
(取材・文/橋本達典)
【プロフィール】
野木亜紀子(のぎ・あきこ)
1974年生まれ。東京都出身。日本映画学校8期。卒業後、ドキュメンタリー番組の制作に携わる。一般企業勤務を経て、2010年「フジテレビ ヤングシナリオ大賞」を受賞後、脚本家デビュー。主な作品に映画『図書館戦争』シリーズ(2013年、2015年)、ドラマ『空飛ぶ広報室』『逃げるは恥だが役に立つ』『アンナチュラル』(TBS系)、『獣になれない私たち』(日本テレビ系)などがある。2020年に映画『罪の声』が、2021年にはアニメーション映画『犬王』が公開予定。著書『獣になれない私たちシナリオブック』が発売中。
宮藤官九郎(くどう・かんくろう)
1970年生まれ。宮城県出身。1991年より「大人計画」に参加。2000年、ドラマ『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系)初の脚本で注目される。映画『GO』(2001年)、『謝罪の王様』(2013年)、『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』(2016年/監督兼任)、ドラマ『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)、『監獄のお姫さま』(TBS系)、NHK連続テレビ小説『あまちゃん』、NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』など代表作多数。4月より「ウーマンリブvol.14『もうがまんできない』」を上演。
1月31日(金)放送、ドラマ24「コタキ兄弟と四苦八苦」第4話は?
「四、死苦」
無職の兄弟、一路(古舘寛治)と二路(滝藤賢一)にまたもや「レンタルおやじ」の依頼が! 今回の依頼は少し長期になるからと、依頼人・島須弥子(樋口可南子)との面談から始まったのだが、須弥子は「あと3か月したら世界が終わる」と言い出す。兄弟にあれこれ買い物を頼むなどまるで奴隷のように扱う須弥子に一路は不信感を抱くが、二路は「その分大金を稼げる」と大喜び。謎が多い須弥子の本当の依頼とは......?
番組情報INFORMATION
2020-01-16 ヒロイン芳根京子まで"古舘化"! 監督を最も四苦八苦させたものとは!?:コタキ兄弟と四苦八苦
今や映画・ドラマに欠かせない存在となった名バイプレーヤーの古舘寛治と滝藤賢一がW主演のドラマ24「コタキ兄弟と四苦八苦」(毎週金曜夜0時12分放送)。真面目過ぎて生きづらい兄・古滝一路(古舘)と、ちゃらんぽらんな弟・二路(滝藤)が、ひょんなことから「レンタルおやじ」を始め、依頼人からのさまざまな無茶ぶりに文字通り"四苦八苦"しながらも、どうにか生きていく......そんな人間賛歌コメディだ。
「前編」では企画実現までの秘話や、脚本・野木亜紀子の秘密まで飛び出した主演の古舘&山下敦弘による対談。「後編」ではハードな撮影裏話や、ヒロイン役の芳根京子に起きたある変化を!?
※前編はこちら
やっぱり日本人は働き方改革しなきゃダメ!
──古舘寛治さんと、滝藤賢一さんという、それぞれの演技スタイルを確立されている俳優さんの共演。山下監督は「水と油のような兄弟というところを、どうおもしろく見せるか?」とおっしゃっていましたが、今回の演出プランはどんなものだったんですか?
山下「原作ものではないし、野木さんの脚本だし、『とにかく芝居がしたい!』というのが古舘さん、滝藤さんからのリクエストで。ホン(脚本)はおもしろいから最初から安心していましたし、それだけに具体的なイメージを持ちすぎないように意識しつつ、今回は主役のお2人と同じ立場でできたらなと思って臨みました。
とりわけ初めて連ドラで初主役の古舘さんはやってみたかった芝居もあるでしょうから、すごく話し合いましたし。リハーサルも、何度も重ねて。もちろん現場での微調整はありますが、あとは古舘さん、滝藤さんの芝居にお任せした感じです。いや、基本、古舘さんか(笑)。やはり『コタキ』の座長ですから、古舘さんがどうやりやすくできるか......は、考えていたつもりです」
古舘「(笑)、だから、そういうのでちょっと監督を困らせちゃったかなというのは反省なんですけど」
山下「いえいえ、いいものを作るってそういうものじゃないですか」
古舘「今回、やりながら山下さんで本当によかったなと思ったのは、おもしろいと思っていることに対しての、ぼんやりとした表現の方法を共有できていたこと。今の話を聞いたら、俺がおもしろいと思う方に寄せてくれたのかも知れないけど(笑)、現場では"共有してるなー"と思ってやっていましたね。
いろんな提案もさせてもらいましたし、事あるごとに対話もさせてもらいましたし。本当にありがたい現場でした。ただ、いかんせん撮影しなくてはいけない分量が多いから、だんだんみんな疲れてくるんですよね。途中から"今、俺との対話イヤがってんな?"というのがわかるようになってきて(笑)」
山下「(笑)、中盤の......5話あたりがピークでした。体力のある、若いスタッフが多かったので助かりましたけど」
古舘「やっぱり日本人は働き方改革しなきゃダメだって肌で感じましたよ。今回、本当に才能が集まった現場だったんですよ。でも、いくら才能があったって、疲れには勝てないし。いくら情熱があってもカバーできない。撮影を終わらせることが最重要になったら実験はできないし、対話する時間がもったいなくなるし......途中で気づきはしましたけど、前半に監督を困らせたことは反省します」
山下「いやいやいや、僕の方こそもっと気持ちに余裕をもたないと」
──この「ドラマ24」の枠は、スケジュールがタイトだと聞きます。
古舘「でも、ほかの人から言わせると『コタキ』はまだいい方だったって言うんです」
山下「そう! ロケバスの乗り場でこの枠をやったことのある監督さんに会って聞いたら『僕は1ヶ月で全話やりました』って。うちの半分くらい! だから弱音吐けないな、やるしかないなと思って」
古舘「ね、弱音吐けなくなるよね?」
(ここでプロデュサーから、撮影時間について「コタキ」より、滝藤賢一主演の「俺のダンディズム」の方が長かったとの情報が)
古舘「すごいな、滝藤くん! あんなに忙しいのにその体力」
山下「僕らもまず、体力付けなきゃダメですね」
古舘「それでも"できちゃう"のをよしとするのが日本人の悪いところなんですが......(笑)」
山下「今回は奇跡的に撮り終えることができましたけど、普段の僕の時間のかけ方では完全にアウトだったと思うんですよ。現場で役者の動きを見ないと何も決められない監督なので。脚本を読んで頭の中で考えていたことが、現場で実際に動くとおもしろくないこともあるし。役者の違和感も修正したいし。
あとは、天気。昼設定が夜になることもありますからね。この天気を選べる(待てる)と日本映画、そしてドラマがもっと豊かになると思うんですけど......とはいえ、僕も天気を選べたというような経験がほとんどないので、撮ったものを結果オーライとしちゃってるのは反省するところではあって(笑)。
ただ、今回は、意識朦ろうとしながら段取りをやって、ちゃんと芝居を見てという僕のやり方をできる限りやらせてもらったので、そこはよかったと思います」
古舘「監督はそうやって、まず芝居を見てからどう撮るかを考えてくれるので、そこが今回楽しかったひとつの理由で。やはり現場に行かないとわからないことが多々あるのでね、俳優としてはうれしかった。あとは何度も言うけど野木さんの脚本と、滝藤くんをはじめとするキャスト」
山下「演者には本当に助けられました。これ言うとまた"(時間が足りないことで逆に)いいこともあるじゃん"って言われそうですけど(笑)、後半は役者のみなさんがキレッキレなんですよ。慣れたというのもあるでしょうけど、短い時間の中ですばらしい芝居をしてくれて。だから中盤、僕が頭ぼんやりしていてあまり芝居を見れなかったところを、どう編集でつなぐかが、これからやらなきゃいけない課題ではあります」
古舘「あるよねー、てんぱった状態でのエネルギー。......でも、それをよしとするから、日本はダメなんだと言いたい(笑)。時間かかるだろうけど、俳優や監督がちょっとずつ声を上げていくことが大事だと思うな」
芳根京子まで"古舘化"で四苦八苦!?
──ドラマのタイトルにかこつけて言うと、撮影でもっとも四苦八苦したのは「時間」ですか?
山下「うーん、なんだろう? でも時間がないのはどこの現場でも付きまとうことで......基本的には楽しかったんですよ。今回はゲストが多いからその都度、芝居も変わって大変は大変なんだけど、それも楽しかったですし。演出で四苦八苦するのは、僕としては手応えのある時なので」
古舘「流れ的に、四苦八苦したのは"古舘寛治"でいいんじゃないの?(笑)」
山下「(笑)、でも確かに古舘さんは、現場でやってみて違和感があると僕に言ってきて。その都度、修正して。前半からそれを繰り返していて。で、後半(古滝兄弟が通う喫茶店の看板娘でヒロインの)芳根(京子)さんがそうなっちゃったんですよ。悪影響じゃないんだけど、"質問が多くなってきた""古舘化してきた!"と思って(笑)」
古舘「わー、悪影響を与えちゃったか~(笑)」
山下「でも、監督としてはうれしいものですよ。物語が佳境に向かう連れ、自分の思いも出てくるでしょうし、台本を読み込んでいる証拠だし。(芳根演じる)さっちゃんも回を追うごとに成長しているわけで。
だから、これは滝藤さんも含めてですけど、僕がもっと余裕をもって、演者のみなさんの提案なりを聞いてあげられたらよかったなと」
古舘「前半のうちにみんなで一杯やって、温まれたらよかったんだけどね。案外、それが大事なんだよ」
山下「じゃあ、気が早いですけど、もしシリーズ化したら次こそ一杯。あと、座長そして古舘さんが現場の改革をしてくれてることを期待します(笑)」
古舘「その前に見てもらえないことにはそんな話もないだろうから。視聴者のみなさん、『コタキ兄弟と四苦八苦』を何卒よろしくお願いします!」
(取材・文/橋本達典)
【プロフィール】
古舘寛治(ふるたち・かんじ)
大阪府出身。ニューヨークにて演技を学んだ後、劇作家・演出家の平田オリザを中心に旗揚げされた劇団「青年団」に入団。舞台をベースに数々の映画やTVドラマに出演し、名バイプレイヤーとして印象を強く残す。2016 年には舞台 『高き彼物』で演出を手掛けた。主な出演作に、ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS)、映画『淵に立つ』(2016年)、『キツツキと雨』(2012年)、『海よりもまだ深く』(2016年)、『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』(2016年)、『勝手にふるえてろ』(2017年)、『教誨師』(2018年)など。2019年は大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』で可児徳役を好演。滝藤賢一とW主演となる『コタキ兄弟と四苦八苦』で自身初の連続ドラマ初主演を飾る。
山下敦弘(やました・のぶひろ)
1976年8月29日生まれ。愛知県出身。高校在学中より自主映画製作を始め、大阪芸術大学芸術学部映像学科に入学。自身初の35mm商業映画『リンダ リンダ リンダ』(2005年)で広く知られ、『天然コケッコー』(2007年)で報知映画賞監督賞、第62回毎日映画コンクール日本映画優秀賞をはじめ数々の賞に輝いた。代表作は『苦役列車』(2012年)、『マイ・バック・ページ』(2011年)、『味園ユニバース』(2015年)など。近作に『ハード・コア』(2018年)。
1月17日(金)深夜0時12分放送の第2話は?
「二、求不得苦」
無職の兄弟、一路(古舘寛治)と二路(滝藤賢一)にムラタ(宮藤官九郎)からきた「レンタルおやじ」の新たな依頼は...親戚のフリをして結婚式に参列すること!ただで飲み食いできる上にお金がもらえると弟が浮かれる一方、兄は偽って親戚をレンタルする新郎を怪しんでいた。しかも、新婦・手毬(岸井ゆきの)のお腹には新しい命が宿っており...疑惑だらけの結婚式。新郎から手毬と赤ちゃんを救うため、ダメ兄弟が立ち上がる!
番組情報INFORMATION
2020-01-09 滝藤賢一の欠席裁判!? 「嫌われてるんじゃないかなと思ってた」古舘寛治×山下敦弘監督スペシャル対談:コタキ兄弟と四苦八苦
令和の時代に新しいバディが誕生した。その名も、"コタキ兄弟"。1月10日(金)スタートのドラマ24「コタキ兄弟と四苦八苦」(毎週金曜深夜0時12分放送)は、真面目過ぎて生きづらい兄・古滝一路と、ちゃらんぽらんな弟・二路が、ひょんなことから「レンタルおやじ」を始め、依頼人からのさまざまな無茶ぶりに文字通り"四苦八苦"しながらも、どうにか生きていく......そんな人間賛歌コメディだ。
ダブル主演を飾り"古滝(コタキ)兄弟"を演じるのは、今や映画・ドラマに欠かせない存在となった名バイプレーヤーの"古"舘寛治(一路)と"滝"藤賢一(二路)。「逃げるは恥だが役に立つ」「アンナチュラル」(ともにTBS)などを手掛ける野木亜紀子によるオリジナル脚本で、映画監督の山下敦弘が全12話すべてを演出するのも話題となっている。
企画の成り立ちは、2017年の初旬にさかのぼる。たまたま顔を合わせた古舘と滝藤が「自分たちが主演できるドラマを立ち上げよう」と意気投合......。それから3年あまり。企画が形になるまでには、さまざまな縁と偶然、そして何より関わった人すべての熱い思いがあった。
原作ものでもなければ、主演は渋いオヤジ2人で華はない。「でも、スター俳優や潤沢な予算に頼らなくても、よい脚本と、よい演出、よいお芝居が揃えば、最高のドラマが生まれる!」(テレビ東京・濱谷晃一プロデューサー)という、今ではなかなか実現しない粋なチャレンジ精神が作り上げた「コタキ兄弟」。
ここでは「コタキ」チームを代表して主演の古舘&山下監督に、ドラマの立ち上げから撮影の舞台裏まで、ぞんぶんに語っていただこう。
監督には嫌われてるんじゃないかなと思ってた!?
──本日は「コタキ兄弟」の主役のお1人である古舘寛治さんと、本作で演出を担当された山下敦弘監督にお越しいただきました。
古舘「俺、いつもは脇役だから、こういう取材で監督と対談することなんて滅多にないので今日は本当に楽しみに来たんですけど、いざ何か話す......となると緊張しますよね。基本的に監督と俳優って現場では闘いというか、せめぎ合いというか。ひとつのいいものを作るためにぶつかり合うもので。監督には嫌われてるんじゃないかなと思ってたから、この取材、よく受けてくれましたね(笑)」
山下「(笑)、いやいやいや、そんなことは(ないでしょう)!」
古舘「ひたすら自分の話をするのはいいんだけど、作品のこととか全体のことに気を遣っちゃうかな、と。そういうのを監督と1対1で話すの、慣れてないから」
山下「確かに僕も主役の方がいないところで話すことはありますけど、目の前にいらっしゃるというのは多少、気を遣いますね(笑)」
──もうひとりの主役が本日は欠席ですので、そちらのお話でもしましょうか。
古舘「そっか、欠席裁判。滝藤くんの話をすればいいのか(笑)」
──その滝藤賢一さんとの兄弟役はいかがでした?
古舘「最初は自分でも年齢差を感じたんですけど、滝藤くんも年齢不詳なところがありますし、周りも大丈夫って言うから、見た目は大丈夫かなと。
で、実際やってみても、想像した以上にしっくりきましたし。日増しに"滝藤くんでよかったな、俺いい人選んだな~"と思っていましたね。勘とか全然いい方じゃないんですけど......偶然なのか必然なのか運命なのかわかりませんけど、本当にベストキャスティングだと思いました。人としての性格も、もちろん芝居も。"いや~、兄弟になれてよかったな"って」
──運命といえば、滝藤さんは山下監督とは「同じ年で同郷。運命を感じております」と、コメントされていました。
山下「そうなんですよ。1976年生まれで、愛知県の出身。今思えば導かれたんだな、と思います」
古舘「どうでした? 2人の兄弟ぶりは」
山下「野木(亜紀子)さんの脚本がお2人に"当て書き"されたこともあって、当たり前のように兄弟としてそこに居ましたよね。ほかのキャラクターだったりが、2人を兄弟と見せてくれるところもありましたし。だから僕も、とりたてて兄弟っぽくしようとか、意識せずやって。それより、水と油のような兄弟というところを、どうおもしろく見せるか? それしか考えていませんでした」
──兄弟でありながら、バディ(男性同士の友人・仲間・相棒)のようにも見えます。
山下「僕も、ある種のバディものとして撮っている意識が大きかったです」
──バディものの常として、オンエア後は「私は一路派、いや二路派」なんて盛り上がるでしょうね。
古舘「放送されたら視聴者のものですから、どのように見てもらってもいいし、ありがたいですし。僕、一路としましては、50歳を過ぎて、そうやって話題にのぼるだけでうれしいかな(笑)」
多忙な俳優×脚本家×監督による企画実現までの道のり
──そもそもの話なんですが、滝藤さんによれば、2017年の初旬に古舘さんと久し振りに再会して「"なんか一緒にやれたらいいね"と話していた」のが、「コタキ兄弟」の成り立ちだと。
古舘「そうですね。フジテレビの湾岸スタジオだったかな。お互いに別な仕事で来ていて。(スタジオに貼ってある香盤表の)名前を見たら滝藤くんがいたんで、昔交換したメールアドレスに『いるの?』って送ったんですね。で、その日は会えなかったんですけど、また後日会って」
──その頃といえば、滝藤さんは初主演ドラマとなった「俺のダンディズム」(2014年、テレビ東京)を経て、数多くの映画・ドラマに出演されて。古舘さんもまた是枝裕和監督の「海よりもまだ深く」であるとか、カンヌ国際映画祭受賞作「淵に立つ」(ともに2016年)で国際的にも高い評価を得て......と、俳優として脂ののった時期であり、転換期でもあったんじゃないですか?
古舘「僕自身はそういう(評価の)認識はなかったけど、滝藤くんは『半沢直樹』(2013年、TBS)で、いわゆる売れっ子になった時期でしたから、最初は"俺のことなんて忘れたかな?"と思っていて。でも返事が来たので会ったら、ものすごく盛り上がっちゃって。それで楽しくなった勢いで『なんかやんない?』と言ってるうちに企画が動き始めた感じですね」
山下「その時点でテレ東でやるとか、具体的な話は出ていたんですか?」
古舘「いや、全然。その時は『テレ東の濱谷(晃一プロデューサー)さんに相談してみれば何かできるんじゃない?』くらいの感じで。滝藤くんは何年か前に『俺のダンディズム』で濱谷さんとご一緒していて。僕はちょうどそのころ『バイプレイヤーズ~もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら~』に呼んでいただいたり、2人とも濱谷さんとはご縁があったし。
お互いにおもしろいなと思う俳優同士で飲んでると、時々こういう話になるんですよ。それが結実することは滅多にないんだけど。でも、今回は滝藤くんも僕も"テレ東なら、濱谷さんとなら、おもしろいことができるんじゃないか......"という予感めいたものはあったかもしれないな」
山下「野木さんという名前は?」
古舘「野木さんとは、滝藤くんはその前年に『重版出来!』で、僕は『逃げるは恥だが役に立つ』(ともに2016年、TBS)でご一緒していて。ちょっと仲よくなっていったのね、野木さんと。一緒に飲みに行ったりして」
山下「脚本家って、あまり現場に来ないですよね?」
古舘「"逃げ恥"の(撮影)ラストか何かにたまたまいらっしゃってて。"あの方が野木さんなんだ......"と思っていたら、俺が出てた(劇団)ハイバイの公演『おねがい放課後』(2007年)を観てくださったみたいで、わざわざ声をかけてくれて」
山下「でも、ドラマの脚本家と俳優が仲よくなるって、あんまり聞かないですよね?」
古舘「それが不思議なんだよね。俺も常々"野木さんの脚本っておもしろいな"と思っていたからうれしくなったのかな? よく覚えていないんだけど、どちらが言いだしたのか連絡先を交換して。『今度飲みましょう』となって。『お願い放課後』って30代のころにやった小さな舞台だったんだけど、"人生に無駄なことなんてないんだな"って思った」
山下「じゃあ、飲みに行く中で野木さんに頼んで?」
古舘「いや、まずは濱谷さんに『野木さんはどうですか?』と提案をして。でも野木さんはお忙しい方だからダメ元で......まずはテレ東に来てもらってお願いをしてみたら、意外とあっさり『いいですよ』となったんですよ! で、そこから本格的に企画が動き始めて」
──企画が立ち上がった翌年の2018年は「アンナチュラル」(TBS)、「獣になれない私たち」(日本テレビ)と、連ドラが2本あり、NHKのドラマ「フェイクニュース」もあって、野木さんとしては、かなり多忙な中のオファーだったと想像しますが。
山下「実際、お忙しかったと思いますよ。『コタキ』の打ち合わせを重ねていると、どんどんすっぴんになっていくんです(笑)。こんなこと言うと怒られるかも知れないけど、それが野木さんの忙しさのバロメーターになっていました」
古舘「この仕事を受けて、"しまったなー"と後悔したかも知れないね(笑)。本当にお忙しい方だから」
──野木さんは「古舘×滝藤でテレ東。それはやってみたいぞ」とおっしゃっていましたし、山下監督のファンでもあるとのことで、相思相愛の関係だったんですね。
古舘「濱谷さんも山下さんの大ファンで、それでオファーして......でも、よく断らなかったですね、監督(笑)。いや~、このキャスティングを聞いて、よく引き受けたな、と」
連ドラ全12話をすべて演出で四苦八苦
──「よく引き受けた」とは、どういう意味ですか?
古舘「山下監督とは長い付き合いなので(2007年『松ヶ根乱射事件』、2011年『マイ・バック・ページ』)、いろいろあるんですよ。長く連れ添った夫婦じゃないけど(笑)。だからプロデューサーとは別に、監督に直接電話して、『僕もちゃんと山下さんを欲しているよ』という気持ちを伝えました」
山下「(笑)、別に古舘さんとはマズイことなんてないし。そもそもテレ東で、主演がこのお2人で脚本が野木さんと聞いて断るバカはいないですよ。本当にスケジュールがダメだったらお断りしますけど、ちょうどこの企画が立ち上がった前後は空いてて。ただ、12話全部を監督すると選択した自分はバカだなーと思いました(笑)」
古舘「(笑)、ちょっとナメてた部分はあった?」
山下「ありました......というか、濱谷さんをはじめ、みなさん普通に『もちろん12話やりますよね?』って言うからそんなものなのかなと思って。今まで連ドラは1本で2、3話しかやったことがなかったから。それでやると決まって周りの人に聞いたら、『そんな人、ほとんどいないですよ』って言われて後悔しました(笑)」
──通常60分、全10話の連ドラで最低2~3人は監督がいますからね。『コタキ』は40分ドラマとはいえキツそうです。
山下「日々老けていきました(笑)。でも脚本はおもろいし、キャストの演技を見ていると疲れを忘れてしまって。やってやれないことはない。やってよかったなと思います。11月末に撮り終えたとはいえ、まだ編集が残っていますが(笑)」
古舘「編集はどれくらいかかるの?」
山下「僕が目の前のことしかできないタイプなので、まだまだかかると思うんですけど(笑)、これから(取材は2019年12月)2話ぶんを1日で詰めてやっていく感じですかね。でも現場もそうでしたが、『コタキ』チームは"全員野球"なので(笑)。プロデューサー、編集スタッフを含めてみんなであれこれ言い合いながら一丸となって、放送ギリギリまでやっているでしょうね」
来週公開の「後編」では、古舘が提唱するよいモノを作るための「働き方改革」や、ヒロイン役の芳根京子に起きたある変化などをお届け。
(取材・文/橋本達典)
【プロフィール】
古舘寛治(ふるたち・かんじ)
大阪府出身。ニューヨークにて演技を学んだ後、劇作家・演出家の平田オリザを中心に旗揚げされた劇団「青年団」に入団。舞台をベースに数々の映画やTVドラマに出演し、名バイプレイヤーとして印象を強く残す。2016 年には舞台 『高き彼物』で演出を手掛けた。主な出演作に、ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS)、映画『淵に立つ』(2016年)、『キツツキと雨』(2012年)、『海よりもまだ深く』(2016年)、『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』(2016年)、『勝手にふるえてろ』(2017年)、『教誨師』(2018年)など。2019年は大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』で可児徳役を好演。滝藤賢一とW主演となる『コタキ兄弟と四苦八苦』で自身初の連続ドラマ初主演を飾る。
山下敦弘(やました・のぶひろ)
1976年8月29日生まれ。愛知県出身。高校在学中より自主映画製作を始め、大阪芸術大学芸術学部映像学科に入学。自身初の35mm商業映画『リンダ リンダ リンダ』(2005年)で広く知られ、『天然コケッコー』(2007年)で報知映画賞監督賞、第62回毎日映画コンクール日本映画優秀賞をはじめ数々の賞に輝いた。代表作は『苦役列車』(2012年)、『マイ・バック・ページ』(2011年)、『味園ユニバース』(2015年)など。近作に『ハード・コア』(2018年)。
1月10日(金)深夜0時12分放送の第1話は?
「一、怨憎会苦」
元予備校講師の兄・一路(古舘寛治)は、現在無職で独身。喫茶シャバダバの看板娘・さっちゃん(芳根京子)が気になる様子。そんなある日、8年前に勘当したはずの弟・二路(滝藤賢一)が家に転がりこんで来るが、来る途中に事故を起こしたという!慌てて現場に向かうと、倒れていたムラタという男(宮藤官九郎)に"レンタルおやじ"の代理を頼まれる...待ち受けていた美人依頼主(市川実日子)を見て絶句。その理由は......!?
番組情報INFORMATION
2019-11-06 無職の残念なおやじが始めた仕事は? 脚本:野木亜紀子×監督:山下敦弘、気鋭のクリエイターが初タッグ:コタキ兄弟と四苦八苦
「きのう何食べた?」や「勇者ヨシヒコ」、現在放送中の「孤独のグルメ Season8」など、数々の挑戦的な作品を放送しているテレビ東京金曜深夜の「ドラマ24」枠。期待の2020年1月クールは、「コタキ兄弟と四苦八苦」に決定!
真面目すぎてうまく生きられない兄と、そんな兄をみて育ったせいか、ちゃらんぽらんにしか生きられなくなった弟。無職の残念な兄弟が、ひょんなことから「レンタルおやじ」を始めることに。依頼内容は、定年退職した夫の様子がおかしい、友達が孤独死しているのではないか、3か月後に世界が終わる......などひとクセある案件ばかり。生きるのが下手な兄弟が、「レンタルおやじ」を通して孤独な依頼人たちと関わり、様々な無茶ぶりに"四苦八苦"しながらも、どうにか生きていく人間賛歌コメディです。
タイトルにもある"四苦八苦"は、元は仏教用語で、人間である限り避けられない8つの苦しみをお釈迦様が教えた言葉。これらに4つの苦しみを新たに加えた、"12苦"がドラマの裏テーマとなっています。
W主演! 古舘寛治×滝藤賢一が愛すべきダメおやじに
脚本は、「アンナチュラル」(TBS)、「獣になれない私たち」(日本テレビ)、「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS)など数々の人気作品を手掛け、市川森一脚本賞、向田邦子賞を受賞して以来となる野木亜紀子のオリジナル。野木はテレビ東京作品に初参加となります。
監督は、「ハード・コア」(2018年映画)、「苦役列車」(2012年映画)、「リンダリンダリンダ」(2005年映画)などで広く知られ、報知映画祭最優秀監督賞をはじめ数々の受賞歴を誇る映画監督・山下敦弘。テレビ東京作品は、ドキュメンタリー「山田孝之の東京都北区赤羽」(2015)、「山田孝之のカンヌ映画祭」(2016)で監督を務めているものの、連続ドラマを全話演出するのは初めてのこと。
野木と山下は偶然にも2018年度の芸術選奨文部科学大臣新人賞にともに選出された、まさに気鋭のクリエイターコンビ。どのような化学反応が起きるのか!? さらに音楽は、今年5月にアルバム「Big fish」をリリースし、数々のCM音楽も手掛ける王舟と、バンド・neco眠るなどでも活躍するミュージシャン・BIOMANによるユニット、王舟&BIOMANが務めます。
そして、W主演を務めるのは、これまで数々のテレビ東京作品に出演してきた名バイプレイヤー古舘寛治と滝藤賢一。古舘はNYで演技を学んだ後、舞台や映画を中心に活躍し、「いだてん~東京オリムピック噺」(NHK)では、重要な役に抜擢され注目を集める演技派。滝藤は無名塾出身で、個性的な役どころで頭角を現し、「俺のダンディズム」(テレビ東京)「探偵が早すぎる」(読売テレビ)では、主演を務めた活躍ぶり。今回の企画は、古舘と滝藤が「自分たちがW主演のドラマを立ち上げよう!」と意気投合したところから始まり、3年近い月日を経てようやく日の目を見たプロジェクト。コタキ兄弟の兄を古舘、弟を滝藤が演じます。正反対な性格の兄弟を演じる2人の絶妙な掛け合いにご期待ください!
キャスト&スタッフとれたてコメント
■古舘寛治(古滝(こたき)一路(いちろう)役)
古舘寛治が主演の一人???これはきっとドッキリに違いない。ドッキリドラマ。僕は実際放送されるまで信じられませんよ。いつドッキリ看板を抱えたテレ東の人が現れるか分かりません。うっかり心許せません。その上でそのドッキリに乗っかった、騙された私がコメントをさせていただくと、こんな夢のようなことはないのです。
自分が主演!ありえない!しかも滝藤くんという素晴らしい売れっ子俳優とのダブル主演! その上に今や飛ぶ鳥を落とす勢いの野木亜紀子さんがこれ以上ない素晴らしいオリジナル脚本を書いてくださり、あの山下敦弘監督が優れたセンスと繊細な演出で僕らの手綱を握ってくれる。スタッフも優秀で個性溢れるメンツ揃い。これはもう必死にやるしかありません。なんとしてもスゴオモな(すごく面白い!)作品にするのです。みんなで!どうかドッキリでありませんように〜!
■滝藤賢一(古滝(こたき)二路(じろう)役)
フジテレビ湾岸スタジオで古舘寛治さんと久し振りに再会し〝なんか一緒にやれたらいいね〟と話していたのが2017年初頭のこと。その数日後には私の初主演作【俺のダンディズム】の濱谷プロデューサーと渋谷でお茶して、あれよあれよと言う間に、こんな大きなプロジェクトに...。本当に夢のようです(泣)
脚本の野木亜紀子さんとは「重版出来!」でご一緒して以来2度目。毎回あがってくる台本が信じがたい面白さ。お見事でございます!しかも当て書き...もはや、言い訳のしようもありません(汗)そして、山下敦弘監督とは同じ年で同郷。運命を感じております。常にカメラ横にへばりつき台本で顔を隠しながら芝居を見ている様が我々俳優には心強く安心感を与えてくれます。
そしてそして我らが座長、古舘寛治さんの「コタキ兄弟」への熱き思いがダダ漏れになっていて、正直めんどぅな時もありますが、毎日口癖のように出る呟き〝幸せだなー〟が現場の全てを物語っております!これから発表されるキャスト・ゲストの方々も超豪華で毎日震えが止まりません! 仲代メソッドと古舘メソッドの二刀流で「コタキ兄弟」を楽しみたいと思っています!
■脚本・野木亜紀子
古舘×滝藤でテレ東。それはやってみたいぞ。ということで走り出したこの企画。「とにかく芝居がしたいんだ!」という熱いリクエストに応えた結果、二人の芝居場がほとんどで、大量の台詞を覚えねばならないという苦行が発生。まさに一切皆苦。以前からファンだった山下監督が全話を演出してくれ、錚々たる役者陣がゲスト出演ということで、出来上がりが他人事のように楽しみです。古滝(コタキ)兄弟と娑婆世界の四苦八苦を噛み締めながら、金曜深夜に笑っていただけたら幸いです。放送地域外の皆様は配信でご覧ください。
■監督・山下敦弘
主演、古舘寛治、滝藤賢一。脚本野木亜紀子。この並びに誘われたら断るバカはいません。ただ12話全部を監督する選択をした自分はバカだなと思います。いや〜しんどい...。日々老いを感じるというか、日々老けてます。でも脚本面白いし、魅力的なキャストの演技を見ていると疲れを忘れてしまう。ドラマという分野にあまり慣れていない自分が演出するので、かなり歪なドラマに仕上がると思いますが、まぁ楽しみにしておいてください。とか言いながらまだ半分も撮り切ってない...。とにかく最後まで走り抜けます。
■プロデューサー・濱谷晃一(テレビ東京制作局ドラマ室)
「よく、その企画通ったね!?」
このドラマのお話を周囲にした時、多くの人から頂くリアクションです。
たしかに原作モノでもないし、主演はシブいおやじ2人で華はない。でも、スター俳優や、潤沢な予算に頼らなくても、"良い脚本と、良い演出、良いお芝居が揃えば、最高のドラマが生まれる!"そんな粋なチャレンジを、テレ東深夜からお届けできることが嬉しくてしかたありません。深夜に楽しく笑えるコメディでありながら、世の中の誰もが抱える普遍的な苦しみと向き合っていく、奥深い人間ドラマです。ぜひ初回から最終回まで全話、観て頂きたいです!
【イントロダクション】
兄・一路(いちろう)(古舘寛治)は、予備校の英語講師だったが、現在は無職でつつましい暮らしをしている。楽しみと言えば喫茶シャバダバに通うこと。可愛いアルバイト店員のさっちゃんに、話しかけようと試みるが、いつもうまく行かず空振りに終わっている。そんなある日、兄の家に、突然転がり込んできた弟・二路(じろう)(滝藤賢一)。兄弟の再会は8年ぶりで、兄が弟に勘当を言い渡して以来のことだ。突然の来訪をいぶかる兄だが、弟が来る直前に事故を起こしていたことを知り、慌てて現場へ向かう。そこで出会った被害者の男・ムラタから、自分の代わりに待ち合わせ場所へ行ってほしいと頼まれる。待ち合わせ場所に現れた女を見て、兄弟は絶句する。その女は......!?
番 組 名:ドラマ24「コタキ兄弟と四苦八苦」
放送時期:2020年1月クール
放送時間:毎週金曜深夜0時12分
放 送 局:テレビ東京系
(テレビ東京・テレビ北海道・テレビ愛知・テレビ大阪・テレビせとうち・TVQ九州放送)※テレビ大阪のみ、翌週月曜 0時12分放送
主 演:古舘寛治 滝藤賢一
脚 本:野木亜紀子
監 督:山下敦弘
音 楽:王舟&BIOMAN(スペースシャワーネットワーク)
チーフプロデューサー:阿部真士(テレビ東京)
プロデューサー:濱谷晃一(テレビ東京)、根岸洋之(マッチポイント)、平林勉(AOI Pro.)、伊藤太一(AOI Pro.)
制 作:テレビ東京 AOI Pro.
製作著作:「コタキ兄弟と四苦八苦」製作委員会
公式HP:https://www.tv-tokyo.co.jp/kotaki/
公式Twitter:@tx_kotaki https://twitter.com/tx_kotaki
「コタキ兄弟と四苦八苦」は毎週地上波放送終了後、動画配信サービス『ひかりTV』『Paravi』で配信します。
【ひかりTV】:https://www.hikaritv.net/
【Paravi(パラビ)】:https://www.paravi.jp